◇AI時代の病態特異的バイオマーカー -限界と挑戦-
Biomarkers specific for pathogenesis in new AI era — limitations and challenges —

IV. 分子診断と尿中エクソソーム解析

 そうなると、これまで我われが、尿沈渣の異常を、腎炎などの早期発見に役立たせてきたように、加齢・生活習慣病を背景に腎機能低下が進行する病態において早期に検出すべきは、やはり本質的な腎臓の変化ということになる。筆者らは、
これまでに糖尿病性腎症の微量アルブミン尿よりも早期の尿中バイオマーカーの開発に着手し、糸球体硬化の責任分子としてSmad1を同定した6)。この発見をもとに、最近、尿中Smad1量の定量法を確立し、ヒトでの検証を行った7)。ところが、最近では、
典型的な糖尿病性腎症の臨床経過を辿る患者は減少し、他の生活習慣病による腎障害を併存する患者が著明に増加している。こうした場合も、不可逆的な腎機能低下のカギを握る細胞は糸球体上皮細胞 (ポドサイト)である8)。ポドサイトが障害され、
脱落(ポドサイト・ロス)が生じると、腎不全が進行し、心血管イベント死のリスクが増大する。そのため、このポドサイトの障害の程度・種類を臨床的に評価することが重要な課題となっている。実際、尿中への脱落したポドサイトを用いた診断の試みが報告されている9)。さらには、
筆者は、2009年度より、厚生労働省科学研究費助成金(腎疾患対策研究事業)「 糖尿病性腎症の病態解明と新規治療法確立のための評価法の開発 」班研究(現在、AMED)において、ヒトでも、ポドサイトが障害を受けると、尿中にエクソソームによってWT1をはじめとする
podocyte-derived signal transduction factors(PDSTFs)が放出され、その程度が腎予後やポドサイトに加わる各種ストレスを予測・反映することを示してきた(図1)。約20年前から、腎生検患者のうち同意を得られたすべての患者の腎組織・血液・尿をバンク化し、
その後の臨床経過とリンクできるシステムを確立しており、AMED研究班においては、不可逆的腎機能低下の予測バイオマーカーを開発し、数年後の腎機能低下を予測するマーカーを同定してきた10)。エクソソームの尿からの簡便な抽出法は、徐々に向上しており、こうした技術開発とともに、エクソソーム内のPDSTFsを含む分子マーカーのパネル化と、AIによる即時診断によって、分子診断と同時に、最適な現行の治療法の提示、そして、新たな分子標的薬の創出へとつながるものと考える。

おわりに

沈黙の臓器である腎臓の障害を早期に知るためには、尿中へ発せされる腎臓のメッセージを正しく読み解くことが重要である。腎障害の原因の複雑性が高まる中、新たに、AI-based estimation(ABE) methodによる評価が最も求められる分野と言える。

(次回からは、腎臓病特異的バイオマーカー、についてです)

参照文献等
6) Abe H, Matsubara T, Iehara N, et al. Type IV collagen is transcriptionally regulated by Smad1 under advanced glycation end product (AGE) stimulation. J Biol Chem 279:14201-14206, 2004
7) Abe H, Doi T, Tominaga T. et al. Urinary IgG4 and Smad1 Are Specific Biomarkers for Renal Structural and Functional Changes in Early Stages of Diabetic Nephropathy. Diabetes 67: 986-993, 2018
Smeets B, Moeller MJ. Parietal epithelial cells and podocytes in glomerular diseases. Semin Nephrol 32:357-367, 2012
8) Hara M, Yanagihara T, Kihara I, et al. Apical cell membranes are shed into urine from injured podocytes: a novel phenomenon of podocyte injury. J Am Soc Nephrol 16:408-416, 2005
9) Abe H, Sakurai A, Ono H, et al. Urinary Exosomal mRNA of WT1 as Diagnostic and Prognostic Biomarker for Diabetic Nephropathy. J Med Invest 65:208-215, 2018