◇AI時代の病態特異的バイオマーカー -限界と挑戦-
Biomarkers specific for pathogenesis in new AI era — limitations and challenges —

III. 分子マーカーによる新たなCKDの診断

こうした危機的状況にあって、一部では分子マーカーによる診断法が確立しつつある。ネフローゼ症候群の一因となる特発性膜性腎症では、腎糸球体ポドサイトにおける免疫複合体による細胞傷害が原因とされてきていたが、その原因抗原が、2009年にBeckらによって
責任抗原のひとつとしてホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)が発見された4)。PLA2R抗体は活動型の特発性膜性腎症患者の血中のみに認められることから、PLA2R抗体のモニタリングは診断と治療効果の判定に期待されている。しかしながら、日本人における陽性率は約50%である。
最近、新たな抗原としてトロンボスポンジン1 型ドメイン含有7A(THSD7A)が同定された5)。この抗原は、特発性膜性腎症の約10%に認められると報告されており、本邦では、約9%で陽性と割合は高くない。また、近年、巣状分節性糸球体硬化症の原因分子として可溶性ウロキナーゼ受容体、微小変化型ネフローゼ症候群に関わる分子としてCD80が報告されているが、不明な点が多くコンセンサスは得られていない。
しかしながら、前述の通り、大多数の腎疾患患者は、加齢による腎機能低下も考え合わせると、一人の患者が単一の原因によって腎障害を有するという場合は、現代では稀であると考えられる。したがって、診断のための(尿中)バイオマーカーもまた、単一ではその役割を果たしえず、マーカーのパネル化などが
必要になる。そのため、複合的要因の解析のためには、こうした膨大なデータの解析の試みが重要と考えられる。血糖・血圧・脂質代謝・食事・体重・薬剤などによる絶え間なく変動し続ける、後天的な原因によって、病態が形成されると考えられ、尿中分子のプロファイルもまた、その都度、変動することが容易に予測される。
さらに、多くの腎疾患が、何十年という慢性の変化・進展をきたすため、腎臓にとっての外的要因(食事や血圧・血糖など)の変動を反映するマーカーの意義は、病態にいかに関与しているかの解明が必須である。その上で、これまでは、さまざまなオミックスによる解析でも成しえなかった新たな診断法が、
人工知能(Artificial intelligence; AI)によって、全く新たな方法で示されようとしている。筆者らは、その確立のための、あらゆるデータを、AIに親和性の高い形式で学習させ、アルゴリズムの適正化を図っている。また、そのAI診断法を検証する準備も進めており、これまで、診断法だけでなく、明確な診断基準がなかったCKDに対し、全く新たな評価方法を樹立させようとしている。

(続く)

参照文献等
4) Beck LH Jr, Bonegio RG, Lambeau G, et al. M-type phospholipase A2 receptor as target antigen in idiopathic membranous nephropathy. N Engl J Med 361:11-21, 2009
5) Tomas NM, Beck LH Jr, Meyer-Schwesinger C, et al. Thrombospondin type-1 domain-containing 7A in idiopathic membranous nephropathy. N Engl J Med 371:2277-2287, 2014