IV. 分子診断と尿中エクソソーム解析(つづき)

こうした場合も、不可逆的な腎機能低下のカギを握る細胞は糸球体上皮細胞 (ポドサイト)である8)。ポドサイトが障害され、脱落(ポドサイト・ロス)が生じると、腎不全が進行し、心血管イベント死のリスクが増大する。そのため、このポドサイトの障害の程度・種類を
臨床的に評価することが重要な課題となっている。実際、尿中への脱落したポドサイトを用いた診断の試みが報告されている9)。さらには、筆者は、2009年度より、厚生労働省科学研究費助成金(腎疾患対策研究事業)「 糖尿病性腎症の病態解明と新規治療法確立のための
評価法の開発 」班研究(現在、AMED)において、ヒトでも、ポドサイトが障害を受けると、尿中にエクソソームによってWT1をはじめとするpodocyte-derived signal transduction factors(PDSTFs)が放出され、その程度が腎予後やポドサイトに加わる各種ストレスを予測・
反映することを示してきた(図1)。約20年前から、腎生検患者のうち同意を得られたすべての患者の腎組織・血液・尿をバンク化し、その後の臨床経過とリンクできるシステムを確立しており、AMED研究班においては、不可逆的腎機能低下の
予測バイオマーカーを開発し、数年後の腎機能低下を予測するマーカーを同定してきた10)。エクソソームの尿からの簡便な抽出法は、徐々に向上しており、こうした技術開発とともに、エクソソーム内のPDSTFsを含む分子マーカーのパネル化と、AIによる即時診断によって、分子診断と同時に、最適な現行の治療法の提示、そして、新たな分子標的薬の創出へとつながるものと考える。現在、エクソソーム診断薬の開発にも着手している。

おわりに

沈黙の臓器である腎臓の障害を早期に知るためには、尿中へ発せされる腎臓のメッセージを正しく読み解くことが重要である。腎障害の原因の複雑性が高まる中、新たに、AI-based estimation(ABE) methodによる評価が最も求められる分野と言える。

参照文献等
(8) Smeets B, Moeller MJ. Parietal epithelial cells and podocytes in glomerular diseases. Semin Nephrol 32:357-367, 2012
(9) Hara M, Yanagihara T, Kihara I, et al. Apical cell membranes are shed into urine from injured podocytes: a novel phenomenon of podocyte injury. J Am Soc Nephrol 16:408-416, 2005
(10) Abe H, Sakurai A, Ono H, et al. Urinary Exosomal mRNA of WT1 as Diagnostic and Prognostic Biomarker for Diabetic Nephropathy. J Med Invest 65:208-215, 2018