◇腎臓病特異的バイオマーカー

Ⅲ. 分子マーカーによる新たなCKDの診断(つづき)

前述の通り、大多数の腎疾患患者は、加齢による腎機能低下も考え合わせると、一人の患者が単一の原因によって腎障害を有するという場合は、現代では稀であると考えられる。したがって、診断のための(尿中)バイオマーカーもまた、単一ではその役割を果たしえず、マーカーのパネル化などが必要になる。そのため、複合的要因の解析のためには、こうした膨大なデータの解析の試みが重要と考えられる。血糖・血圧・脂質代謝・食事・体重・薬剤などによる絶え間なく変動し続ける、後天的な原因によって、病態が形成されると考えられ、尿中分子のプロファイルもまた、その都度、変動することが容易に予測される。さらに、多くの腎疾患が、何十年という慢性の変化・進展をきたすため、腎臓にとっての外的要因(食事や血圧・血糖など)の変動を反映するマーカーの意義は、病態にいかに関与しているかの解明が必須である。その上で、これまでは、さまざまなオミックスによる解析でも成しえなかった新たな診断法が、人工知能(Artificial intelligence; AI)によって、全く新たな方法で示されようとしている。筆者らは、その確立のための、あらゆるデータを、AIに親和性の高い形式で学習させ、アルゴリズムの適正化を図っている。また、そのAI診断法を検証する準備も進めており、これまで、診断法だけでなく、明確な診断基準がなかったCKDに対し、全く新たな評価方法を樹立させようとしている。

Ⅳ. 分子診断と尿中エクソソーム解析

そうなると、これまで我われが、尿沈渣の異常を、腎炎などの早期発見に役立たせてきたように、加齢・生活習慣病を背景に腎機能低下が進行する病態において早期に検出すべきは、やはり本質的な腎臓の変化ということになる。筆者らは、これまでに糖尿病性腎症の微量アルブミン尿よりも早期の尿中バイオマーカーの開発に着手し、糸球体硬化の責任分子としてSmad1を同定した6)。この発見をもとに、尿中Smad1量の定量法を確立し、ヒトでの検証を行った7)。ところが、最近では、典型的な糖尿病性腎症の臨床経過を辿る患者は減少し、他の生活習慣病による腎障害を併存する患者が著明に増加している。(次回へ続く

参照文献等
(6) Abe H, Matsubara T, Iehara N, et al. Type IV collagen is transcriptionally regulated by Smad1 under advanced glycation end product (AGE) stimulation. J Biol Chem 279:14201-14206, 2004
(7) Abe H, Doi T, Tominaga T. et al. Urinary IgG4 and Smad1 Are Specific Biomarkers for Renal Structural and Functional Changes in Early Stages of Diabetic Nephropathy. Diabetes 67: 986-993, 2018