Ⅱ. CKDの診断上の問題点

それでは、腎臓病の診断はどのようになされるか。一部の遺伝性疾患を除けば、唯一の確定診断法が腎生検である。しかしながら、この侵襲性の高い検査法は、治療の望みがある患者、すなわち腎炎・ネフローゼ症候群などの一部の患者において適応となる。それ以外の大多数のCKD患者は確定診断がなされないまま、腎機能低下の進行を少しばかり遅らせる対策を施行する以外に術がない。そこで、侵襲性が低く、慢性の経過の中で繰り返し検査が可能な、liquid biopsyに期待が寄せられている。ところが、この分子マーカーの確立以前に、腎疾患の場合は、それらの分子病態が明確になっていなかったことがあげられる。同様に、腎臓病の多くに治療薬がない理由ともなっている。この課題をクリアーすれば、尿を用いることで、侵襲なく診断を、しかも継続的に行うことのできる利点がある。また、分子標的薬などが生まれやすい時代になっている。そのため、さまざまな基礎研究で得られた知見を基に、実際のCKD患者において、病態に関わる分子が、ヒトにおいて、実際に臨床経過や病勢を反映しているかどうかの検証がなされつつある。腎における異常は、尿の異常にほぼリアルタイムに反映される。したがって、尿中markerのprofileを評価することで、診断・治療の奏功の程度・予後などを知ることが可能となる。

Ⅲ. 分子マーカーによる新たなCKDの診断

 こうした危機的状況にあって、一部では分子マーカーによる診断法が確立しつつある。ネフローゼ症候群の一因となる特発性膜性腎症では、腎糸球体ポドサイトにおける免疫複合体による細胞傷害が原因とされてきていたが、その原因抗原が、2009年にBeckらによって責任抗原のひとつとしてホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)が発見された4)。PLA2R抗体は活動型の特発性膜性腎症患者の血中のみに認められることから、PLA2R抗体のモニタリングは診断と治療効果の判定に期待されている。しかしながら、日本人における陽性率は約50%である。最近、新たな抗原としてトロンボスポンジン1 型ドメイン含有7A(THSD7A)が同定された5)。この抗原は、特発性膜性腎症の約10%に認められると報告されており、本邦では、約9%で陽性と割合は高くない。また、近年、巣状分節性糸球体硬化症の原因分子として可溶性ウロキナーゼ受容体、微小変化型ネフローゼ症候群に関わる分子としてCD80が報告されているが、不明な点が多くコンセンサスは得られていない。(次回へ続く)

参照文献等
(3) 文部科学省今後の幹細胞・再生医学研究の在り方についてhttp://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1113_01.pdf
(4) Beck LH Jr, Bonegio RG, Lambeau G, et al. M-type phospholipase A2 receptor as target antigen in idiopathic membranous nephropathy. N Engl J Med 361:11-21, 2009
(5) Tomas NM, Beck LH Jr, Meyer-Schwesinger C, et al. Thrombospondin type-1 domain-containing 7A in idiopathic membranous nephropathy. N Engl J Med 371:2277-2287, 2014